あーもーっ!!何やってんだよあいつら!!
 桜花と桃華の実況に、ボクは苛苛と舌を打つ。

 

 

 

 

雪合戦カーラ視点

 

 

 

 

 これで残ってるのはボクと響の二人だけ。べっつにそんなことは問題じゃないけど、向こうは楽羅と月留の二人がいて―――――追い詰められているんだと錯覚して沸く焦燥感が更に苛立ちを増長させる。
 怒りに任せて雪玉を投げつけても、楽羅には掠りもしない。まぁ、あの本当に人間族なのか疑う身体能力を考えれば当然のことなんだろーけど!!
 ってゆーか!!!
 ボクは軽く投げられた雪玉を避けて怒鳴った。

 

「何さっきからその明らかに手加減してるとしか思えない投げ方!!!バカにしてるわけ!?」

「ははは、なんだ、バレてたか?」

「バレてるに決まってんじゃんか!!!」

 

 何、つまりボクは…響っておまけも含めてすら、本気にするまでも無い相手だって言いたいわけ!?
 文句を紡ごうと再び口を開きかけ―――――ボクは背後からの気配に、咄嗟に左に跳んだ。

 

「あ、やっぱ避けられた。やっほ〜楽羅っち〜お助けに来たよー」

「来たよー!!」

 

 月留と――――響の方には、瑠華。
 瞬間的に今が一番最悪な状況だってことに気が付いて、ボクはまた、舌打ちした。

 

「あーほらカーラ、せっかくの雪合戦なんだからそんな険しい顔しなさんなって」

「そりゃーあんたたちは楽しいだろうねっ!!」

「うん!楽しいよー!!」

「ウザ」

「あぁ!!カーラ酷い!!」

 

 嫌味だってコトが理解できなかったらしい瑠華が何がそんなに嬉しいのか理解不明な笑顔で言葉を返したのに思わず顔を歪める。
 こっちはちっとも楽しくなんかない。そもそも好き好んで参加したわけでもないのに、なんでこんな必死になんなきゃならないわけ!?
 雪が積もってて動きにくいし、寒さは体温を奪うし、本当、こんな状況下でわざわざこんな遊びをする意味がわかんない。
 月留と楽羅の投げる雪玉をしゃがんでから右に跳んで避けて、雪を掴もうとして―――――既に感覚の麻痺しかけた手は持ち主の命令に応えず、むなしく積もった雪を散らしただけだった。

 

『あーっと!!カーラ、楽羅っちと月留相手に防戦一方!!』

『対して響君と瑠華は雪玉を投げあい激戦を繰り広げています!!かわいいです!!

『…』

 

 舌打ちして月留が投げた雪玉を避ける。
 ウザい。ムカつく。鬱陶しい邪魔邪魔邪魔ッ!!
 寒さで痺れた両足がもつれそうになって、思わず片膝を突いて悪態を吐く。
 思い通りにならない両手足を引き裂きたい衝動に駆られて―――――思いとどまる。たかが雪合戦ごときで、怪我をするのもつまらない。
 まぁ、どーせすぐ直るんだけど。

 

「なぁカーラ。」

「何ッ?!!!」

 

 苛立ちのまま、かけられた声に其方を振り向きもせず噛み付くみたいに応じる。
 雪を蹴って雪玉を飲みこみ無効化した向こうで、月留がどこか透明な、真摯な眼差しを向けていることに気が付いて眉根を寄せる。

 

 

 

 

「力、使ってもいいんだぞ?」

 

 

 

 

 思わず、凍りついた思考と連動して動きが止まる。
 だけど雪玉は飛んでこない。

 

「最初と、ダードの攻撃を相殺させるとき以外、使ってないだろ?」

 

 何かを言おうと口を開いて、だけどなんて言えばいいのか判らなくて言葉にならない。
 苛立ちに似ただけど違う何かに奥歯を強く噛む。
 何か、言わないと。

 

「ぁ……つ、使うまでもないじゃん!!たかが、雪合戦なんかで…っ」

「怖いの?」

「っ!?」

 

 寒さが原因ではなく震える声に、静かな声が上乗せられて息を飲む。
 否定の言葉は、空気を震わせもしなかった。

 

「私達に、怪我、させたくないんだよね。」

「そ、んな…んじゃ…」

 

 別に、そう、別に、そんなんじゃない。
 ただ…ただ、そう…………そうだ、怖いんだ。
 口に出しては絶対に認めないけど、
 自分でも信じられないけど、

 

 

 こいつらを―――――傷つけるのが、怖いんだ。

 

 

 なんでか、なんて知らない。考えたくない。
 体が震えて押さえ込む。
 なんで、いつから、ボクは
 こんなに弱くなったんだろう

 

 

「カーラ」

 

 

 びくりと一度大きく体が震えて、震えが止まる。

 

 

「大丈夫だぞ。」

 

 

 振り返れば、いつもの、微笑。

 

 

「俺たちは壊れない。」

 

 

 なんで、
 あんたがそれを言うんだよ。
 甦りかけた情景に、首を左右に振った。

 

「思いっきりやっていーよ、カーラ。どーんと受け止めたげるからさ。」

 

 遠慮なんかしないでよ。笑いながら言われて、どうすればいいのかわからなくなる。
 ルーン達みたいに上手くコントロールなんか出来ない。月留達みたいに手加減なんか出来ない。だってそんな方法知らない。だって今までただ壊すだけだったんだから。
 なのに、どーしろって言うわけ?

 

「死…んだら、ど、すんのさ」

「死なないよ。」

「でも、加減とか…っ」

「これから覚えればいいだろう?」

 

わからない。わからないわからないそんなのわからない。
ゆるゆると首を左右に振って否定しても、二人は微笑を浮かべているだけで。

 

 

「「カーラ」」

 

 

 名前を、呼ばれる。

 

 

「「一緒に遊ぼう」」

 

 

 イントネーションの違うだけど同じ言葉。
 わからない
 どうすればいいのか

 

 

 わからない。

 

 

「う――――――ぁ、あ、あ…」

 

 混乱する思考。答えの出ない迷走。湧き上がる律動。焼け付くような衝動。
 使えばいいじゃないかと頭の中で誰かが囁く。
 それで自分以外の誰が壊れたっていいじゃないかと哂う。
 どうせまた、
 独りに戻るだけなんだから。

 

 

「ぃ、やだ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ――――っ!!!!!!」

 

 

 囁きを打ち消すように叫ぶ。
 意思に従って、主に逆らって、力が溢れて風が舞う。茜に着せられたコートの裾が翻る。

 

 衝動が鼓動のように強くなる。目の前が赤く染まる。
 喉が、渇く。
 疼く。

 

 

 

 

う、ぁ、あ・あ゛・あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああ―――――っ!!!!!

 

 

 

 

 咆哮と同時に、
 膨れ上がるだけ膨れ上がった力が全方向へ解き放たれた。

 

 

**********

 

 

異変と魔王⇒