「それで、朱禍さんがずっと一緒にいらっしゃるのですか?」 「ははは;」 「…」 黄泉さんと並んで話を聞いていた夜彦さんに尋ねられて楽羅っちは笑って誤魔化している。 雪合戦月留視点 「朱禍、悪かった。」 「…バカ。」 「…おっしゃるとおりです。」 「ははは、なんだ楽羅、尻に敷かれてるな。」 甘酒を手に笑う麗春に楽羅っちは返す言葉も無くただ苦笑のような笑みを浮かべる。 現在、雪合戦は終了して『天支』本拠地の屋敷広間にてお正月パーティー中。当然、雪合戦に参加しなかった皆も集合している。 「やっほーフェフィさん!珍しいねフェフィさんが研究所から出てくるなんて、」 「年初めなのだからと創造主に無理矢理召喚されただけだがね。」 ナイツさんや夜独とはまた違う、淡々としたというよりも感情が一切含まれていないような不思議な声が顔をほぼ完全に隠すフードの下から返ってくる。 「―――しかし面白い民族衣装と飲食物だな。後で素材や構造、成分を調べたいのだが」 「あはは、フェフィさんらしいねぇ。それじゃあ後で楽羅っちとかにお願いしとくよ。多分明日以降になると思うけどいい?」 「構わない。礼を言う。」 「いえいえ〜、お礼とかそんな私はフェフィさんが着物着て写真撮らせてくれたらそれで十分なんですが」 「それは断る。」 「ちぇ。」 絶っっ対可愛いのに。 「赤組の皆遅いねぇ、」 『往生際悪く粘ってんだろ。ケケケッ』 「まぁそーなんでしょーけどねー」 会場を見回し言った私の言葉に、応じたのはフェフィさんじゃなかった。 「ちなみにルーさんとしては、今回の相棒さんの戦いっぷりはどうでしたかな?」 『ケッ、なっちゃいねェよ、てんでダメだな。』 「ありゃりゃ、点数辛いねぇ」 ちなみにあの雪合戦の様子は『天支』内で生中継されていたらしい。ま、なんとなくそんな気はしてたけどねぇ。 『アイツがアンタほど場馴れてりゃあもーちっと良い点やれんだがなァ。どうだ?アイツと一月ほど殺しあってみねェか?そうすりゃあちっとは使えるようになりそうなんだがなァ』 「んー、一ヶ月もそんな殺伐とした生活するのヤだからパスかなぁ」 冗談めいて言われた言葉に私も冗談っぽく返す。八割くらい本気で言ってるってわかってるけど、頷く気にはなれない。 なんて思いつつへらへらと笑みを浮かべていた時だ、 どうやら、漸く赤組の皆のご登場みたいだね。 『えー、いつもなら司会とかはカーラ君がするんだけど、今回彼は被験者なので何故か俺が選ばれてしまいました!なんでだろうねぇあはは。 まぁそれは置いといて、赤組の皆の入場です!』 「どうぞ〜〜」と、どこか気の抜ける声で言いマイクを持ってるのとは反対の腕を伸ばして広間内へ向けて伸ばしたジェナさんに、電光石火の勢いで走り寄った影がマイクをぶん取った。 「あ・の・ねぇ!! 入場って何よ入場って!? しかも何今の音!! 唯でさえアレなのに態々注目なんて集めなくていいわよフツーにしてよねフツーにっ!!」 「傍観者の時はむしろ率先してやる奴がよく言うな」 「うるっさいわねいいのよ楽しいから!!でも今は楽しく無いもの見んなバカーっ!!」 「えーっと、ルーンちゃん?俺も流石にちょっとアレだと思ったんだけどこれ全部朋美ちゃんの考えた演出と台詞なんだよねー。ほら、朋美ちゃん創造主でしょ? だからその通りにしないと仕方なくてね? ほらほらいい子いい子、大丈夫だよ可愛いから、ね? だから泣かない泣かない、」 「泣いてないわよバカっ!! 見んな〜〜〜っ!!!!!」 うっわ、ルーンってばかわいっ!! ちなみにその格好は真紅を主張にしたヒラヒラのフリルが沢山付いたミニスカのメイド服に、いつもは下ろしている長い黒髪を右上の高い部分でお団子にして残った髪をそこから垂らしている、というこれまた可愛いもので、腕は肘までを薄い布の手袋で覆い足元は膝まである服と同色のブーツに太股をガーターベルトで覆っていて、 なんて悶えていた時、ふいに、私は何かが歪むような違和感を覚えてルーンの斜め頭上に視線を転じた。 「こんばんは皆さん一部の方は先ほど振りですねまぁそんな事はどうでもいいわけですが、」 「ちょっ、な、なん〜〜っ!?」 「それでは、こんなに可愛いルーンさんを見せるのはあまりにも勿体無いので持って返らせていただきますねさようならごきげんよう」 「ばっ、な、はぁ!?」 首まで真っ赤になったルーンの驚愕の声がぶつりと途切れて、同時に二人の姿が一瞬で消える。 「ってアホかぁああ!!!!! ん何やっとんねんあの変態魔王!!? ちょ、ムーン行くでルーン救出や!!」 「む? ルーンはピンチなのか?」 「ピンチやピンチ!! あの変態嫁入り前や言うのに何するか判らんで!!」 「むぅ、よくわからないがピンチなのだな!」 「そや、ピンチや!」 「む、ならお助けするゾ!!」 「おう!!」 なんて会話をダードとムーンが交わして広間を飛び出して行って、 『はい、それじゃー残りの皆のお披露目行ってみよっかー、赤組さん入〜場〜〜』 何事もなかったかのように司会を続けた。 先頭の夜独は憮然とした表情で、次の響は頬を赤らめ、それでも(私がやらせるから)慣れてる為か半笑いを浮かべて、その次のカーラは頭の後ろで手を組んで平然と、最後の翠はいつもの無表情を若干赤らめさせて、全員自棄なのか割り切ったのか堂々とした足取りで中央まで歩み出る。 「いっそ皆ピンク着ればよかったのに」 「着れるかっ!!!」 「断固拒否する」 「ボク別にいーけどー、どーせ何着ても似合うしー」 最後の台詞は当然カーラで、我が弟は「だったら交換してよ…」と滂沱の涙だ。 「さっさと選んで着なかったのあんたじゃん」 「衣装見て固まってる間にさっさと選んじゃったのカーラじゃん!!」 成る程、用意してあった衣装は5着で合うサイズが2着しかなかったわけか。それはそれはご愁傷様。 バキューン と、セットしてある音声が流れる。 「っ、肖像権の侵害だ!! 断固抗議させてもらう!!」 「いやぁ、どうせ後で創造主主催の撮影会もどきになると思うよ私は」 「なっ…!?」 「諦めろ翠、どうせそれ込みで罰ゲームだ。」 「そ、そんな情報は与えられていない!」 「それはねー新聞に“大統領”って単語があってもその意味まで詳しく載って無いのと同じなんだよねー」 「くっ…!!」 「さて、それじゃあお給仕の方、しっかり頑張ってね?」 にこやかに言ってお盆だののお給仕セットを上品に指差したのは月獅姉ちゃんで、 「別にそこまでしなくても…」 「らぁくらっち、最初からそういう条件だったんだから抗議は無し!ね?」 「それはそうだが、」 きゅっと眉間に皺を寄せ言うのは自分が“勝った”事への負い目、かな? 「運ぶのはこれだけか?」 「夜独…?」 「楽羅、お前の気遣いは嬉しいんだがな、オレ達にだって矜持はあるんだ。…勝者に情けをかけられて、なんとも思わないと思ったのか?」 ―――ま、そうだよねぇ。 「それじゃあ飲み物を配るついでに、おしることぜんざい、いるかどうか聞いて、いる奴には持って行ってくれ。」 「あぁ、」 「了解した。」 「夜独兄ちゃん俺もお盆取ってー」 「わかった。…ほら、」 「サンキュー」 そんなやり取りをしている頃にはそれぞれ良い意味でも悪い意味でも自分主義な『天支』メンバー、皆意識は別のところに向き各々で新年のパーティーを楽しんでいて、かく言う私もいい加減おいしそうなお汁粉の匂いに意識をそちらへ移そうとした所だったのだけれど、 「カーラ、」 「何」 「悪かった、な。」 謝罪の言葉にカーラの片眉が跳ね上がり、不機嫌オーラが色濃くなる。 「何ソレ。意味不明理解不能前後の文が解りませーんってゆーか予測は出来るけどーボク天才だしー。……で、何。」 「何、と言われても一言では言えないんだが。…雪合戦で、お前が凍傷になってるのを知ってて試合を続けた事と、それから」 「ストップ、ストーップってゆーかもーシャラップ黙れ」 「は?」 棒読みで促され棒読みで遮られた楽羅っちがきょとんと目を瞬き、喋るのを止める。何で遮られたのか判らない、という、少し不安げな無垢さゆえに子供っぽい表情を浮かべる楽羅っちを見上げて、カーラがうんざりと溜息を吐き出した。 「あのさぁ、…あーもーウッザいなぁこのおっさん…いや知ってたけど……あのさぁ、なんであんたが謝んの?」 「なんでって、自分に非がある時は謝るものだろう?」 「あーうんそーだねーはいはいそのとーりー真っ当な回答ありがとー―――バッカじゃないの?」 「それは良く言われるが、」 「あーもー本っ当どこの赤ん坊だっつの。あのさぁ凍傷起こしたって一時間も経たない内に直るしほっといたのボクなんですけど。ってゆーかあの寒空でノースリ着てて凍傷起こすなんて最初ッから知ってるし知ってたしボクはそれ理解してそーゆー格好してんだよねつまりさ、ボクの自己責任なの。それをなんであんたに謝られなきゃなんないわけ?」 「、それは」 「あとどうせあんたの事だから、ボクが…あー…暴走しだのも自分の責任とか思ってるんだろうけど、あれだってボクが元々自制心弱いからでってゆーかあんた圧死しかけたんだしどっちかってゆーと悪いのは…………………〜〜っ、ああもう!! ウザい、本当ウザいこういうのッ!!!!」 「カーラ?」 真っ赤になって怒鳴るカーラ(可愛いなぁv)に困惑気味の楽羅っち。 「ぅわっ!?」 「はいはい楽羅っち、あんまりカーラを困らせちゃ駄目だよー」 「っつ、…え?困らせてたのか? 悪い、カーラ、」 「っだから!! 謝んなって言ってるんだよボクはッ!!!!」 焦ったように謝罪の言葉を口にした楽羅っちにとうとう我慢の限界が来たらしいカーラが怒鳴る。それに楽羅っちが何か言うより早く、私はもう一回尻尾を引っ張って遮った。 「ぃっ」 「つーまーり、喧嘩両成敗って事で、ね?」 「喧嘩って…カーラは何も悪く」 「あんたボクの説明聞いてなかったわけ?」 「何も悪くない」って言おうとした言葉を遮って不機嫌に言われ楽羅っちが言葉に詰まる。けど、眉間に寄った皺が納得していない事を雄弁に語っていて、 「うんうん、だから“喧嘩両成敗”。両方悪いと思ってるんなら、両方謝るのが一番いいと私は思うのですがどーでしょう?」 にっこり笑って言った私の言葉に、しばし双方無言。 「ごめん」 「……ゴメンナサイ」 続いてカーラもボソボソと謝罪を口にして、 ***************** 「ところで、あんたは謝ろーとか思わない訳?」 「うん。だって悪いと思ってないし。」 「あっそ。」 FIN |
(かくして舞台は日常へ) |