「それでこれはどーゆーことなわけ?」

「うん。だから雪合戦。」

 

 ルーンの詰問に、薄暗い地下の酒場のカウンターの向こうで創造主こと柳乃朋美は笑みを隠そうともせずさらりと答え、それに、その場にいる気の短い数人――夜独、ダード、カーラ、ルーンの額に青筋が浮かぶのを残りの数人―――月留、楽羅、響は確かに見た。翠と茜と瑠華が気づいているかどうかは謎であるが。
 一種緊迫した空気が酒場を満たし、一触即発とも言えるその雰囲気の中でカーラが相変わらずのタンクトップと半ズボン…の上から茜に無理やり着せられたらしいコートを羽織っている姿で腕を組み創造主を斜め上から睨んだ。

 

「ふっざけてるわっけ〜?それとも正月ボケ〜?呆けてるのは前からだろうけどさぁこっおーんな寒空の下でなぁんでボクがそーんなガキみたいなことしなきゃなんないってぇの〜?冗談じゃ」

「ルール無用で力使い放題なんだけど」

「まぁやってあげなくもないけど。」

 

 ここのところ『蝙蝠』の仕事にかかりきりでストレスの溜まっていたらしいカーラは創造主の物騒な言葉にあっさり言葉を覆す。
 ちょっと待て、と、それに異議を申しだてたのは突っ込み担当と認知されている夜独だ。

 

「ルール無用だと?ふざけるな貴様このメンバーを見ろ他はともかく俺と杉野宮と瑠華と響は生身の人間なんだぞ!?」 

「ちょっとー私だって人間よ〜?」

「そーだよ私も人間なんですけど?」

「俺も一応人間なんだが」

「貴様らと俺たちを同列に扱わないでくれ。」

 

 島一つくらいなら容易く消し去れるほどの魔道師と素手で熊も倒す少女と身一つ刀一つで壁を駆け上り大蛇すらも一刀両断するような万国びっくり人間と同じように扱われたら命がいくつあっても足りない。というか死ねる。無理。魔王の力を借りなければ少し喧嘩が強い程度の凡人だと自分を認識している夜独はそういう意味を込めて即答した。
 なによそれーと『天支』での戦闘能力bQとbRはなおも抗議するがその辺の思いを汲み取ったのだろう楽羅だけが「ははは」と乾いた笑みを浮かべ誤魔化す。
 兎も角、夜独のまっとうな訴えに、朋美は視線を宙に彷徨わせた。

 

「う〜ん…確かに契約者無しで、だもんねぇ…けどくじ引きで決めたわけだし…」

 

 ちなみにそのくじ引きとはメッセンジャー・明城桃華が全員のところをめぐり引かせたもので、ここにいるのは不運にも「あたり」を引いてしまい強制召喚された面々だったりする。
 朱禍と桜花はハズレを引いてしまったので実況中継をやるらしい。

 

「ま、なんとかなるっしょ。」

「待て貴様そもそもこの面子で雪合戦が成立すると本気で思っているのか!?」

 

 沈黙。

 

「さーて『雪合戦?』のルールを説明しまーす」

「無視かい。」

「流したわね」

「しかもなんだそのクエスチョンマークはっ!!?」

「まぁまぁ、落ち着けよ夜独、いつものことだろう?」

「いつものことだろうで済ませられるほど俺は人生達観していないっ!!」

 

 キレてる夜独の剣幕に、頭を掻いた朋美は小さくため息を吐く。
 自分ひとりの保身のためであれば、夜独はここまで怒らない。いやそれでも文句ぐらいは言うんだろうが。
 彼がここまで怒っているのは、この場に茜、瑠華、響の年少三人がいるからだ。基本お兄ちゃん属性でなんだかんだ言って面倒見の良い夜独は本気で三人を心配していて抗議しているのだ。
 だが、
 ちらり、と、創造主はあっけらかんとしている楽羅へ視線を向ける。

 

「…ま、楽羅がいるし大丈夫でしょ。ルーンだって、悪乗りさえしなきゃそういうフォローも得意だし。瑠華はESP持ってるし響だってそこそこやるよ?」

「それは…確かにそうかもしれないが…」

「ダイジョブだって。んじゃ、ルールの説明するよ〜」

「つぅか拒否権は無いんか」

「当然じゃん。」

「当然なんか」

 

 辟易とした様子で突っ込んだダードの言葉に即答し、朋美はにまりと笑んでルールの説明を始める。
 さぁ、楽しい雪合戦?の開幕だ。

 

 

 

 

 

*******

 

開幕⇒