雪合戦、というものは初めて経験するが、漂うこの緊迫感は馴染み深くて心地よいものだ。
 合戦、と、言うことはこれは戦争の一種なのだろう。
 なんでも、雪球で攻撃し、三度当たれば戦線離脱せねばならないらしい。
 なるほど、模擬戦か。

 

 

 

 

雪合戦翠視点

 

 

 

 

「じゃ、私が吹雪舞(ブリザード)で吹雪起こすからさ、それで一網打尽ね!」

「はぁ? 何言ってるわけそれじゃーボクが力使えないじゃん風具現化して雪球当てるからあんたは後ろで見てれば〜?」

「え〜私だって魔法使いたいもーん。ってわけでじゃあ私とカーラが魔法とか使って早々に終了、本拠地戻って楽羅っちお手製のおしるこ食べてあったまりましょ。」

「それじゃあさっさとやんない? あっちはま〜だ無駄な作戦会議してるみたいだしぃ。」

 

 その言葉に視線を向ければなるほど、岩陰で集まり、楽羅を中心に話し合っているのが見える。
 あまりにも無防備だ。今攻撃すれば、一撃で全員とまで言わずとも半数を離脱させられるだろう。そう思った。
 だが、

 

 頭の後ろに腕を組み、立っていた月留がこちらを向いた。

 

 体が突然重くなり、体感温度が数度下がる。
 否、違う。
 月留から発せられる圧力(プレッシャー)に、五感が錯覚を起こしているんだ。
 それに、カーラでさえもが口を噤み、全員の眼差しが殺気の源へと注がれる。
 たじろぐ事も無くその視線を受け流して、それだけが薄く笑んだ唇が大きく動く。

 

 

 

 

 

―――――――『動けば潰す』―――――――

 

 

 

 

 

 声なき声が耳元で聞こえ、首裏を嫌な汗が流れたとき月留は視線をそらしダードの方を向いた。
 だが、意識はこちらに向いたまま。
まとわり付くような圧迫感にたじろげば、楽羅がちらりとこちらを向いてすまなそうに微苦笑を浮かべた。

 

 気づかれている。こちらの行動など。全て読まれている。
 そのことに気が付き、いつの間にか緩んでいた緊張の糸を引き絞る。
 油断すれば、敗退するのはこちらの方。そのことを思い知らされた。

 

「どうやら、不意打ちは不可能なようだ。」

「ふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……なるほどねぇ、本気ってわけ。いぃいじゃない。この天才美少女魔導師ルーンちゃんが受けてたってやろうじゃぁあぁありませんか。」

 

 夜独の呟きに、地獄の底の底なし沼の深くから響いてくるような声でルーンが笑い、カーラが不気味なものを見る目で一歩彼女から距離をとる。
 それにすら気づくことなくルーンは握りこぶしを作り完全に獲物を見る目で白組の面々へ爛と眼差しを向けた。

 

 

 

 闘争心を燃やし、感情の昂ぶりに魔力が火花を散らすルーンを見て、月留がしているように頭の後ろで腕を組んで様子を見ていた響がボソリと呟く。

 

「これって作戦会議?」

 

 それは確かに謎だと思った。

 

******

 

 

 

私の出来ること⇒