桜花姉ちゃんと桃華姉ちゃんの実況で、茜が退場したのとカーラが二発当てられたことを知り、俺は押さえ切れなくて小さく笑う。
 だってほら、楽しいし。
 …まぁ、メイド服はさすがに俺も嫌だけど。

 

 

 

 

雪合戦響視点

 

 

 

 

 雪合戦。最後にやったのは一昨年の正月だ。二年間の冒険が終わって、ゼノルとレイスレットとツァルベルと翔と姉ちゃんたちとで、ゼノル達の世界で雪合戦をしたんだった。
 確かあの時は俺たちのチームが負けて、月留姉ちゃんに猫耳やらされたんだっけ…。

 

 雪玉を作りながら思い出して、知らず頬が緩む。負けたけど雪合戦は楽しかったし、今だってそうだ。
 ルーンは一発当たってて、カーラは二発。向こうは茜が退場。玉の数だけで数えたら互角だ。
 ルーンもカーラも圧勝するのが好きみたいだけど、俺はこういう接戦のほうが好きだし。

 

 ルーンの方に瑠華と月留。翠はそっちの援護に行ってる。
夜独兄ちゃんのところにはダード。カーラは楽羅にムキになって雪玉投げてるし、

 

 

 

 …あれ?俺もしかして余ってる?

 

 

 

『おぉっと!!夜独選手、ダード選手のフェイクに引っかかり一発当たった――――っ!!』

『翠選手!背後から月留選手を狙うも避けられ逆に一発取られたっ!!』

「おーい」

 

 

ぱたぱたぱた

 

 

 両手を振ってみるけど、他が白熱してるからか、実況中継中の三人も俺が余ってることに気づいてくれない。
 む…むなしい……

 

 このまま岩陰にでも隠れてたら最後まで生き残れるんじゃないかなとは思うんだけど…それじゃあ面白くないじゃん。せっかくの雪合戦なのにさ。
 となれば、自分から混ざるしかないんだけど…

 

 ルーンと翠の援護…は、月留姉ちゃん相手にすると、試合が終わった後まで絡まれるし、
 カーラの援護…なんてしたらカーラ怒るだろうしなぁ、
 と、なれば残るは…

 

 俺は雪玉を両手に一つずつ持ち、回り込んで――――――同時にダードの背中に放った。
 雪玉は綺麗に放射線を描いて、ダードがそれを振り向きもせず右に避けて自分からもう一個の雪玉にぶつかった。

 

「うどわっ」

「っしゃ!」

 

 へへん、やりぃ!ナイスコントロール俺!
 でも石の入った方を見もせず避けるなんて、さっすがダードだよなぁ。まぁ、それを予測して投げたんだけど。

 

「おまっ、響!!いきなり何すんねん!!」

「気づかなかった方が悪いんだよダード♪油断大敵火の用心ってね」

「意味わかっ」

 

ぐしゃ

 

 振り返って文句を言うダードの後ろ後頭部に、夜独兄ちゃんの投げた雪玉がヒットした。
 ふっ、とせせら笑って、もう一つ雪玉を作りつつ言う。

 

「忠告は聞いたほうが良いぞ?あと一発で退場になったことだしな。」

「そうそう。忠告はちゃんと聞いた方がいいよダード、次で終わりだけどな♪」

「っ、の、クソガキがッ」 

 

 爛、とその血を垂らしたみたいな瞳が燃えて銀の髪が波打つ。
 その両手に、紫色に蠢く光球が精製される。

 

「「げ;」」

 

 模擬戦で何度か見たことがある。魔力球。
 確か瘴気の塊で、掠っただけで木とかなら腐ってたようなっ!?

 

「ちょ、ダードこれ雪合戦!!

「そうだぞ落ち着け!!攻撃するなら雪玉にしろ雪玉に!!

「じゃかぁしいわっ!!」

 

 

 ヤバイ!!本気の目だ!!!
 俺と夜独兄ちゃんは一気に青ざめて、それぞれ全速力で逃げ出した。
 「まてやコラぁああ!!」って背後で聞こえるけど……待つわけないじゃん!!

 

 

「楽羅!!カーラ!!へるぷみー!!」

「は?」「ん?」

 

 

 俺の情けない声に戦闘をやめて振り返る二人。その隙に、俺は楽羅の背後へ回りこむ。
 丁度そのときダードの手から瘴気の球は放たれ、状況を理解したらしい楽羅とカーラが身構え―――――――

 

 

「カーラ、頼む!!」

「オッケー♪あとで餡蜜つくってねんv」

 

 

 楽羅が俺を小脇に抱えて横に跳んだ。
 …って、カーラ、なんで餡蜜?

 

 疑問が声に出るより早く、カーラは左右に広げた両手に風を具現化させる。
 巻き上がる雪と靡くコート。踊る髪。
 薄っすらと露悪的な笑みを浮かべて、カーラはその両手を迫り来る瘴気の球へ向けて、押し出した。

 

 

「消・え・ちゃ・えぇえええっっ!!!!」

 

 

 咆哮に連動して、具現化され、集められた風が大砲みたいに打ち出され雪を抉り飛翔し―――――――瘴気の球にぶつかって、空に向かい上昇気流を巻き起こした。

 

 

「す…っげぇ…」

 

 

 濃縮された瘴気が風に巻き上げられて、その途中で霧散して無力化される。
 それを吹き荒れる暴風の中見上げて、俺は思わず呟いてた。

 

 うわぁ…雲が出来てる…;

 

 もう驚くのを通り越して呆れてたら、向こうでダードがルーンにとび蹴りを食らわされてて、
 呆けつつそれを見てた時、背中にバスンッと軽い衝撃があって踏鞴を踏んだ。

 

 

「うわぁっ」

「油断大敵火の用心じゃなかったのか?」

 

 

 へ?
 振り返ったそこにいたのは、さっきまで俺を庇ってくれてた楽羅っち。

 

 

『ああ!!騒ぎに乗じて楽羅っち、響の背中に雪玉を当てました―――――っ!!酷い!!響に何すんのよ楽羅っち!!!』

「ははは、悪い悪い。けど、そういうゲームだろ?」

 

 

 同意を求めるみたいに、笑顔で言う楽羅に一瞬唖然として…

 

 

 

 

「おう!倍返しだかんな!!」

 

 

 

 

 俺は笑って宣言した。

 

 

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