茜がリタイアでダードが後一発。月留(ねぇ)と俺と楽羅(にぃ)はまだ無傷。
 あっちはカーラが後一発でルーン姉と翠兄と夜独兄と響が二発。
 …ルーン姉ってば、跳び蹴りじゃなくて雪玉当てればこっちの数減らせたのにねぇ…

 

 

 

雪合戦瑠華視点

 

 

 

 けど、これ以上こっちの数を減らされるわけにはいかないよね。
 そう思って、俺は雪玉を三つ作って、念動力(キング)で宙に浮かせて全部を一気に、ダードに怒鳴ってるルーン姉の背中に向けて放った!!

 

 

「大体あんたは――――――っ!?」

 

 

 言葉の途中で、不自然な力の流れに気づいたのか振り返る動作と同時に横に跳ぶルーン姉。
 だけど。

 

 

「うっひゃあ!!?」

 

 

 

ばすっ

 

 

 

 

 咄嗟にしゃがんだルーン姉の、顔を庇った腕に途中で曲がって追いかけてきた雪玉の一つが当たる。
 雪玉を操ってるんだから、こういう事も出来るんだ。
 ……ただこれはちょっと難しいから……一個は曲がらずにダードの顔に当たっちゃったけど;

 

 

「ぶっ…瑠華ッ!!!おま、味方に当ててどないすんねん!!?

「わぁ!!ごめんなさい!!

『そこ!!小さい子を脅すな!!』

『そうですよ!大人気ないですよダードさん!』

「ちょお待てや、俺が悪者なんか?!

「小さい子って…俺、今年で十七歳だよ!?」

 

 

 酷い!!確かにまだ身長150cm無いけど!!
 でも直ぐにおっきくなるんだもん!!170cmのかっこいー大人になるんだもん!!一人称“俺”だし!!

 

 

「瑠華!後ろ!!」

「ふえ?」

 

 

 ばすんっ

 

 

『あぁ!!瑠華の背中に夜独さんの投げた雪玉が命中しました!!』

『ちょっと夜独!!今年二十歳になったんだからもうちょっと大人になんなさいよ!!何子供虐めてるわけ!?』

「貴様らは贔屓し過ぎじゃあないのか?」

 

 

 辟易したみたいな声と実況に振り返れば、雪原でくっきりとその存在を主張する、真っ黒な夜独兄が右手で雪玉を遊ばせてた。
 慌てて雪玉を作って両手に構えたら、今度は横手からルーン姉の声。

 

 

「私がいるってこと忘れんじゃないわよ!!食らえルーンスノーボール!!

 

 

 うわぁ、そのまんまなネーミングだね!
 なんて言ってる場合じゃないや、挟まれた!!

 

 前方には夜独兄。横にはルーン姉。でもって背後には翠兄が構えてるのを確認して体が強張る。
 だけど、
 どうしよう、って迷った一瞬の間にルーン姉と翠兄が投げた雪玉は、横手から投げられた別の雪玉とぶつかって雪の塊にもどって、
 俺は驚いたけど慌てて夜独兄が投げた雪玉を避けた。

 

 

「く…っ」

「ちょっと月留!!何すんのよ!!」

「まぁまぁ、二人の相手は私ってことで。一つよろしく!」

 

 

 人を食ったみたいな声に、見たら月留姉が翠兄に向かって雪玉を投げながら鮮やかに笑ってた。
 ちらりとこちらを向いた黒曜石の瞳に、月留姉は思考共有(テレパス)が使えるわけでもないのに、「だから夜独をお願いね」って声が聞こえた気がした。

 

 

「ダードも雪になってないで手伝ってね!」

「無視しとったんは己らやろが!!」

『おおっと!!乱戦です!!』

『瑠華がんばってー!!』

『…眠い』

『あぁ!!寝るんじゃない朱禍クン!!寝たら死ぬぞ!!

『…煩い』

 

 

 お姉さん達…実況する気あるのかなぁ
 そう思ったのは夜独兄も同じみたいで、眼が合うと肩をすくめて微苦笑した。
 う〜ん、かっこいーなー。俺もああいう動作が似合う大人になりたいっ!!

 

 

「それじゃあ、やるか。」

「うん!負けないよ!!」

 

 

 宣言と同時に念動力(キング)で雪の塊を六つ浮かせ、くるくる回して雪玉にする。
 こっちに向かって駆け出す夜独兄に向かって、俺は二つ、それを飛ばした。

 

 

「いっけぇ!!」

「ふん」

 

 

 す…、とその瞳が眇められて、走りながら危なげも無く雪玉を避ける。
 俺は一歩後ろに後退した後、雪玉を周りに浮かせながらルーン姉たちが戦闘してるのとは反対方向に駆け出した。

 

 

「逃がすか」

「逃げてないもん!!」

 

 

 言い返しながら雪玉を一つ飛ばす。
 首を曲げるだけの動作でそれを避けられて、距離はどんどん縮まっていく。

 

 僅かに身を屈めて隙無く走る夜独兄の姿はまるで黒豹みたいで、
 その眼光に怯みそうになりながらも俺は残りの三つを、タイミングをずらしつつ夜独兄に向かって飛ばした。

 

 

「―――――直線的だな。」

 

 

 夜独兄が最後の一つを避けて、一瞬動きが止まったとき、
 俺は夜独兄の背後にいた

 

 

「なっ!?」

「チェック・メイト!!!」

 

 

 手袋をはめた両手に元々持っていた雪玉を、
 俺は振り返る夜独兄に投げつけた。

 

 

 ばすぼすっ

 

 

 不安定で無防備な体勢だった夜独兄に、雪玉はあっさり当たって黒を白で覆う。

 

 

『おお!!!瑠華が夜独に二発当てました!!凄いぞ瑠華!!』

『これで三発当たった夜独さんは退場です!』

『……退場』

 

 

 あからさまにやる気無いね朱禍姉;
 そう思って、「ははは;」って笑ったら、夜独兄が溜息を吐いて苦笑した。

 

 

 

「…まぁ、それなりには楽しめたか。」

 

 

 

 微かに喜色の混じるその言葉を最後に、夜独兄の姿がブレて消える。
 桜花姉たちのいる実況席の左右にある天蓋付の観客席を見れば、茜が座ってるのと反対側の席の一つに夜独兄が送られたところだった。

 

 

 

 こっちに向かって満面の笑顔で親指を立てる月留姉に、俺はやっぱり満面の笑顔でVサインをした。
 これで数は4対4だね!!

 

******

 

 

予想外の出来事⇒