「本当に大丈夫かなぁ・・・」


 排気口の中で、桜花は小さくぼやいた。





正義





 やっぱり排気口からの潜入は月留さんにまかせて、自分はルーンさんと敵の鎮圧に回った方が良かったかなぁ?

 胸中で呟いてみる。桜花よりも月留のほうが背は二センチほど小さいし、猫のように細くてしなやかな彼女なら十分排気口からでも潜入できたのだ。
しかし桜花は首を振る。月留さんを一人にしたほうがなんとなく怖い。それに世の中には適材適所という言葉があるのだ。確かに桜花は戦闘能力で言えば、魔導師協会において同じチームである双子の二人や、今回同じチームとなった月留やルーンより上だろう。しかし実際に戦えば確実に負けるのは桜花の方だ。
 何故なら一般人として生きていた桜花よりも戦闘に身をおいていた彼ら彼女らのほうが圧倒的に経験値が上だからだ。そりゃあギルドからの任務をこなし、少しは経験値も積めただろうがまだ足りないと桜花自身思っている。
 屋上からの潜入の目的は敵の制圧。人質もいることを考えれば、自分よりも戦いなれている彼女達に任せるのが適切であると桜花は判断した。
 兎に角自分は、自分の役割を果たすことを考えよう。たとえ彼女達がどれほど不安を抱きたくなる人物であっても、自分と同じ創造主である柳乃朋美に創造された主人公の一人なのだから。



 一方、桜花の心配をよそに着々と任務を進めている月留・ルーンは、既に二階にたどり着いていた。今までいた敵は皆持参した塩ビテープで両手両足を縛り、人質は勝手に動かれても困るのでそのまま放置させてもらっている。
 

「―――――凍れる魔王のその息吹!『凍吐息(ブリザ・ブレス)』!!」


 ルーンの嬉々とした詠唱と発動の言葉に応え、大気中の水分が氷結し風を纏って室内に吹き荒れる。瞬時に強盗団の二人を氷の彫像と化し、満足げに微笑んだ。


「ってもしもしルーンさん?凍らせちゃったらまずいんでないっすか?」
「だぁいじょうじょぶv 死にゃしないって♪」
「それもそっかぁ♪」


 氷の中に閉じ込められた魚は何年経っても死なないというので、人もそれに適応されるだろう。という至極単純な理由でルーンは答え、月留は月留で気楽に笑う。心なしか人質達の見る目が強盗団へ向けられていた物よりも濃く恐怖を宿しているが完全無視である。


「つーわけで、人質の皆さんは、警察が来るまでもうちょこっと我慢しててくださいね〜♪―――――あ、それが嫌な人は言ってくださいね、静かにしてられるようにこんなかんじで凍らせてあげますから。」


 言うルーンの言葉にがくがくと人質達は首を上下に振る。それに満足げに頷いて、二人は階段を駆け下りた。



 今回で六度目の銀行強盗を行ったこの強盗団は、しかし予想よりも早く警察に取り囲まれてしまったことに焦っていた。
 味を占め、いつもよりも長く留まっていたのが原因だろう。このままでは警察に突入されるのも時間の問題かもしれない。
 

「――――――おい、二、三人選んで入り口に並ばせろ。」
「殺すんですか?」
「見せしめにな。それで援軍が来るまでの時間くらい稼げるだろ」
「そーは女神が許さないのよねぇ」
「!? だ、誰だ!!」


 突然会話に入ってきた高いソプラノの堂々とした声に、強盗団員がいっせいに声の聞こえた方―――――――二階へ通じる階段へ視線を武器を向けた。


「う〜んオリジナリティの無い台詞ありがとう雑魚キャラAさんvでも本名名乗ると女神に怒られるから仮に超天才美少女魔道師乙女の味方【金緑石(アレキサンドライト)】とでも名乗らせていただきましょーか」
「でもって私は【必然(ヴェルダンディー)】♪ さてさてそういうわけですからほら武器捨てて大人しく投降してくださいね〜♪」
「ふ、ふざけるな!!!」


 四つの銃口とナイフを向けられても平然と仕事名(コードネーム)を名乗った二人に強盗の一人が怒鳴る。だがあまりに威風堂々としたその立ち姿に押され気味だ。


「ありゃりゃぁ、投降する気ゼロっすか。」
「あたりまえだ!!」
「お、女二人で敵うと思ってんのかてめぇら!!」
「思ってなかったら素直に出てくるわけないじゃんそんなことも分からないなんて何あんた達バカ?あ〜あこれだから雑魚キャラは」
「ね〜ぇ」


 月留が言い、ルーンが頷いてやれやれと首を振る。完全にバカにされていると理解して、強盗達の額に青筋が浮いた。
 リーダーらしい男が顎をしゃくる。


「殺せ」


 その言葉を合図に、何処で入手したのかいかにも重そうなマシンガンのトリガーが引かれた。

 ずだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ

 耳を劈く発砲音に人質の面々が顔を背ける。誰もが二人の女性の血塗れになった姿を想像したことだろう。
 だがしかし。


「うわー今更だけど私銃って本物初めて見たー」
「私も。うちの世界って銃器類無いし。」
「あ、そうなんだ?」
「そうそう。ほら、魔法のほうが効率いいじゃん?」
「あー、納得」
「でっしょ〜?
「ど、どういうことだ?!」


 強盗たちの悲鳴じみた叫びに、本来なら蜂の巣になっているはずの二人は会話をやめた。


「いやどういうことって言われても。」
「魔法?」
「ふっ、ふふふ、ふざけるな!!!」


 事実それはルーンが階段を下りる途中にあらかじめかけておいた『防壁(バリア)』という魔法の効果で、彼女等に向けられた銃弾は全て透明な円形に展開した盾に触れた瞬間、まるでそこだけ重力が数倍もあるように地面に真っ直ぐ落下している。が、そんなものがあるはずも無いと信じ込んでいる面々はただただ理解不能な事態に恐れおののくだけだった。
 しかし、唯一リーダーらしい男だけは冷静に指示を出す。


「撃つのをやめろ弾の無駄だ!――――おい女!こっちにゃ人質がいるんだぞ?」
「それが?」
「なっ?!」


 これで動きを封じられると信じていたのだろうその予想をあっさり裏切られ、人質を含め全員の顔が強張った。
 その隙をついて、月留が一瞬その小柄な体を沈め、まるで獲物を狩る猫のように駆けると、突然の事態に反応できなかった強盗の一人の背後に回りこみ、男の腰に差してあったナイフを引き抜きその首に当てた。


「ヒッ」
「はいはーい動かないでねー動いたらこの人死んじゃいますからねー」
「な、なに?!」
「お、おまえら正義の味方じゃないのか?!」


 仲間を人質にとられて強盗団はざわめき、理不尽なその事態に思わずと言った様子で叫んだ。が、それに二人はあからさまに顔を顰める。


「は?何夢見ちゃってるんですかいい年こいた大人が。」
「いるわけ無いじゃん正義の味方なんて都合のいい人種がさー、まぁ、乙女の味方ならいるけど。」


 あっさり言われて面々の瞳に紛れも無い恐怖が浮かぶ。理解を超えた事態が立て続けに起きているために脳は情報を処理しきれずただ混乱し、動くことも出来ず硬直する。


「ってわけだから武器捨ててくんない?」


 にっこりと、月留は強盗団に言ったのだった。
執筆:2006/09/19