≪ありゃぁ、言うところの強盗団のアジトだったぜ?≫


 魔王の言葉に、三人はそれぞれ顔を顰めた。





伏兵





 情報として魔王が脳に直接流した洞窟内部の情景には、人と、地球ではありえない大きさの様々な獣鳥類、そして彼らに飼育されているらしい『寄生獣(パラサイト)』の群れが映っていた。そして幾つもある部屋のような空間に仕舞われた金銀財宝の数々。

 どうやらこの世界の、少なくともこの強盗団の連中は『寄生獣(パラサイト)』を操る術を知っているらしい。恐らくこの世界の創造主である女神すらも知らなかったのだろう情報に、(すい)は眉宇を寄せた。
 名も無い者を『利己的(エゴイスト)』にする厄介な『寄生虫(ウイルス)』―――『(アノフェレス)』の力が強まってきているとは聞いていたが、これもその一つなのだろうか?
  

「一度、女神に事態を報告するべきではないのか?」


 翠の尤もな言葉に――――ちなみに今は洞窟から離れ作戦会議中である――――しかし隊長(リーダー)である(なぎ) 夜独(やひと)が静かにその首を左右に振った。


「俺たちに与えられた任務はあくまでも『寄生獣(パラサイト)』の退治だ。変更があれば連絡が来るだろう。それまでは与えられた任務のことだけを考えろ。」


 なるほど尤もな判断だ、と、頷きかけた翠はしかし、舌打ちの声に視線をやった。
 この中で唯一この世界の住民である狼人族(おおかみひとぞく)のレイスレット=ザートだ。

 
「胸糞悪ぃ・・おいリーダー、こっちは人質がいるわけでも無ぇんだ。とっとと行って暴れようぜ」


 任務を任務として認識しているのかも怪しい短絡的かつ野蛮なその発言は、強盗団の中に自分と同じ種の者がいたことへの苛立ちから来ているのだろう。自分ならば絶対にしないような行動をする同じ容姿の双子の愚弟がいる翠にはその気持が僅かながらもわかった。自分まで同じく下等に見られているような、下衆になったような気分になって、それは酷く不愉快なものだ。

 しかしそれにも夜独は首を左右に振る。その虚ろな闇色の瞳が面倒くさげに、それでも何かを考えるように揺れていた。


「ただ突撃するだけじゃ駄目だ。『寄生獣(パラサイト)』に一匹でも逃げられたら、任務失敗であの女神に何をされるかわかったものじゃないからな。」


 それにも翠は頷く。任務失敗時の懲罰は何処の組織であっても常識だろう――――――――――彼の考えている『罰』と、夜独の行っている『お仕置き』はまた別種のものであるのだが。


「できれば潜入して『寄生獣(パラサイト)』を誰が操っているのか、もしくはその方法を探りたいんだが・・・・」
「不可能だぜ。群れに違うのが混じりゃあ匂いでわかる。」
「だろうな」


 入り口から虱潰しに鎮圧していったとしても、隠し通路や抜け道くらいはあるだろう。それに、先ほど潜入に成功した魔王だが、彼は魔力的、あるいは神の力が働いている事象もしくは物質でなければどれが怪しくどれが怪しく無いのか判断できないので『『寄生獣(パラサイト)』を操っている正体の解明』という今回の潜入にかり出したところで意味が無いので使えない。


「なんなら手伝ってあげよっか♪」
「「?!」」

 
 唐突に聞こえた、どこか癇に障る軽薄な、言ってしまえば子供っぽいその声に翠と夜独は気配に気づけなかったことに驚愕し、レイスレットはその犬並みの・・というか、狼人族の超人的な嗅覚と聴覚で気づいていたのだろう、同じく気づいていたらしい魔王と同じく平然と、その声の方向を振り仰いだ。
 茂みで覆われた視界の悪いその場所の、すぐ傍に立つ巨樹。その枝の一つに人影があった。
 青緑の、片方だけが異様に長い髪。額に巻かれた、所々赤黒い染みのある包帯。その下にある、僅かに垂れ目気味の、幼さゆえの残忍さを秘めた深紅の瞳。にやにやと人をバカにしたような笑み。痩身痩躯で、胸元だけを覆う肩のむき出しになった、けれど襟の高い黒い服と、太ももの半ばまでしかない短い、けれど口の広い黒のズボン。鉄板でも仕込んでいるのだろう、底の厚いブーツ。外見で判断するならば年齢は14,5ほどか。
 
 翠にはその人物に覚えがあった。アスタルテという名の世界に創造された、情報屋の少年。
 しかし初対面であるレイスレットは剣呑に、夜独は面倒臭げに『誰だ?』と呟いた。よほど聴覚に優れているのか、二人の呟きが聞こえたらしくその少年は『あはん』と笑う。


「ボクの名前はカーラだよぉん♪女神様の、つぅかぁい。よっろピク〜♪」


 なにやら普段に増して上機嫌だ。何かいいことでもあったのだろうか。

 いつもは適当に金装飾のリングをはめている右腕には『天支』のメンバーに支給された腕輪に似通った、けれどもっと複雑で凝った、上品な装飾の施されている金を土台にした腕輪がはめられている。この『異空間移動機能付腕輪型通信機INカーラ専用』を創造主である柳乃朋美から貰ったのが上機嫌の理由だとは誰も知らない。
 女神がカーラを操作するのを放棄して腕輪を与え、『殺しだけ最小限に抑えてくれるんなら好き勝手に適当な連中ン所行って手伝うなり邪魔するなりしていいよ』と受け取り様によってはかなり酷い発言をしたことも、カーラがそれを忠実に護って――――――――――――つまり好き勝手やるつもりなのだということも彼のポジションも、夜独たちは一切知らなかった。
 自由補佐官通称『鷹』に一番近く、そして一番遠い役割にある者。それがカーラだったりするのだ。

 彼は『うみょん♪』という訳のわからない掛け声と共に大地へ降り立ち、にんまりと三人と魔王一柱に、犬歯までをむき出しにした、無邪気さと露悪さが混ざる笑みを向ける。


「ボクなら今洞窟の中にいるみぃんなを無力化できるよん♪」
「殺さずに、か?」
「りょーほー」


 言って得意げに胸を張る。子供そのもののようなその仕種には演出じみたわざとらしさが滲み出ていて、それがカーラの軽薄さ、薄っぺらさに拍車をかけていた。
 信用できない。
 それが三人の抱いた共通の感想だった。しかしそれすらもわざと彼が与えている印象のような気がしなくも無い。
 どっちつかずの蝙蝠。この存在を言い表すとしたらこれだろうか。
 誰も信じない信用しない。だから自分も信じられないように信用されないようにする。
 カーラはそんな空気を纏っているように思えた。
 

「・・殺さず、一人の敵も逃がすことないように、できるのか?」
「そぉれぇはぁあんたたち次第〜♪ボクはただ洞窟内の敵を無力化するだ・けv けど、あんたたちがミスさえしなかったら、ひゃくぱー成功するよん♪」


 どーする?
 首をかしげるカーラに、
 夜独は思案し、そして言った。


「頼む。」
執筆:2006/09/18