「よくもまぁ、こんだけ集めたもんだぜ」


 岩の『寄生獣(パラサイト)』の胴を力任せにその拳で抉り、本体を引きずり出しながらレイスレットが呟いた。





作戦変更





 『寄生獣(パラサイト)』の本体は掌に包めてしまうほどのサイズの玉だった。色は様々で、レイスレットが今握りつぶしたのは灰色。研究サンプルとして種類ごとに持ち帰るよう技術開発部の連中に頼まれているため、彼らはいちいちそれを取り出し確認しなければならないのだ。


「おい!今で何色集めた?」
「赤と灰色と白と緑と青と赤茶色だ。」
「浅葱色のこれはまだか?」
「まだだな。」


 夜独がそれぞれ瓶に詰めた『寄生獣(パラサイト)』を確認して言い、翠が今取り出したばかりのそれを手渡す。ひとまず視界にいた『寄生獣(パラサイト)』は全員始末し終えたのを確認し、息を吐いたレイスレットは「つぅか、」と辟易とした声を出す。


「……色とか関係あんのか?」
「知るか。技術開発の連中に聞け。」
「てか今ので何体目だ?」
「四十七体目だ。」


 レイスレットの問いに夜独は面倒臭いと全身で訴えながら、翠は変わらぬ完結さで答えた。翠はどうやら全員が倒した『寄生獣(パラサイト)』の合計を把握しているらしいがその返答にレイスレットは呻く。
 もう少しで五十体。強い相手と戦うのであれば楽しめるが、知能も無いただ突っ込んでくるだけの『寄生獣(パラサイト)』相手ではさすがに飽きて来た。


≪ケケッ、またぞろ出てきたぜ≫


 唯一傍観の体制をとっている魔王の言葉に奥を見れば、そこには再び通路を埋め尽くすほどの岩や砂や泥の『寄生獣(パラサイト)』の姿。それを見て、三人は顔を引き攣らせた。


「……鬱陶しい……」
「まったくだぜ」
「これも任務だ。我慢しろ。」


 夜独が呟きレイスレットが同意し翠が嗜める。だがいい加減辟易しているのは皆同じ。




「―――――――よし、今集めた『寄生獣(パラサイト)』の数は七色だな。」




 突然、夜独が誰にとも無く告げた。それにレイスレットが片眉を跳ね上げ疑問を表しつつも頷く。


「あ?そうだが……」
「今回回収できた『寄生獣(パラサイト)』の数も、七色だな。」


 確かめるような、というよりは決め付けるようなその断定口調に、しかし意味を悟りレイスレットと翠は顔を見合わせ――――――それぞれ冷ややかに口の端を持ち上げる。


「あぁ、そうそう。今回回収できたのはこの七色だけだぜ。」
「同意だ。」
≪ケケケケッ、女神の逆鱗に触れなけりゃいいがなぁ≫


 つまり、このまま一体一体確認しつつ倒していくのは止めだという意味だ。楽しんでいるとしか思えない魔王の言葉に、夜独は薄く笑う。


「怒られやしないさ。この七色しか回収できなかった(・・・・・・)んだからな。」


 言ってその右手を無造作に向かい来る『寄生獣(パラサイト)』の群れに向け―――――振り下ろした。
 途端、まるで見えないローラーで踏み潰されていくかのように夜独に近い『寄生獣(パラサイト)』から順々にめきめきと軋み押しつぶされ、中に納まっている本体ごと潰れて地面に張り付いていく。それでもなお知能も危機感も持たない『寄生獣(パラサイト)』は同じ『寄生獣(パラサイト)』であったものを踏みつけ進軍し、同じ道をたどって逝った。
 魔王ルシフェルと契約することで得た異能の力。土星を司るサタンでもあるルシフェルの能力の一つ。重力操作だ。彼のように重力を打ち消したり弱めたりは出来ないが、こうして特定の区域に重力場を発生させることはできる。
 その圧倒的な力を見てレイスレットは囃すように口笛を吹き、翠はほう、と感心の息を吐く。だがそれに夜独は眉一つ動かさなかった。
 何故なら彼は自覚しているからだ。それが自分の力ではなく、魔王ルシフェルに与えられている力であると。変なところで細かい彼は、だからその力を誇示することも、それに驕ることもした事は無かった。

 瞬く間にその一群を退治し終えた夜独は、やはり無造作に背を向けると二人と魔王に向き直る。


「今から別行動をとろう。その方が『寄生獣(パラサイト)』を操っている正体の探索もし易いだろうしな。連絡は通信機で取ればいいだろう。」
了解(りょーかい)リーダー。」
「承知した。」


 頷き、三人は別々の方向へと足を向けたのだった。
執筆:2006/09/19