『こちら【剣となる者】―――――すげぇもん発見したぜ』 通信機から聞こえてきたレイスレットの驚愕と興奮で擦れた声に、夜独と翠は別々の場所で眉根を顰めた。 |
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魔王ルシフェルにレイスレットの生命反応を探索させてその場所にたどり着いた夜独は、まだ来ていないだろう翠を連れてくるよう魔王に頼み、洞窟内で唯一あるその扉を開いて、広がったその光景にただ目を瞠った。 呻き声のような、意味を持たない声が口から漏れる。 その空間には石の板が床に敷かれ、その上に机や棚などの家具が揃っていた。机の上に置かれた顕微鏡や散乱した書類、ビーカー、試験管、を初めとする様々な研究機材。各種薬品が棚に収まり、この世界にはあるはずも無い大型のPCが部屋の隅を陣取っている。 床に倒れているのは研究者だろうか。既にレイスレットによって拘束されているが今は人型の姿をとっているその獣人族は、目から大量の涙と、鼻から大量の鼻水をたらして既に気絶していた。哀れだ。 しかし、それらの異様な光景よりも、夜独がただ凝視するのは部屋の中央に聳えるガラス柱だった。 淡く青白く発光しているのは中に満たされた液体の色だろう。その中央辺りで、幾つもの 「………なるほど」 小さく呟く。思ったよりも擦れていた声に、夜独はその舌で唇を湿らせ繰り返した。 「なるほど、『 呟き、自分の仮説が正しいかを確かめるために書類の一つを無造作に掴み黙読しようとして、それがこの獣たちの世界の言葉であることに気づき舌打ちをした。これでは読めない。 「――――『 淡々と紡がれた言葉にそちらを見れば、レイスレットがさして面白くもなさそうに視線を寄こした。 「大体の内容はそんな感じだぜ。つってもまぁ、俺は学者じゃねぇんで詳しい専門用語だのなんだのは解んねぇがな。」 「いや、それだけ分かれば十分だ。――――助かる。」 「そんじゃあこの情報はいらねぇか?」 打って変わって獰猛さを滲ませる笑みを浮かべたその声に、夜独は漆黒の、どこか虚ろなその瞳に疑問を宿す。そんな彼に、レイスレットは「獣人族ん中にゃ…」と言葉を紡ぐ。 「自然を操る能力を持つ奴が、稀に生まれるんだ。」 「!! なるほど、自然に寄生した『 「そういうことになるな。あと、俺等の世界と『壁向こう』……月留達の世界を繋ぐ扉を創ることのできる能力者も、本当に極稀だが、いるらしい。そいつが協力して地球から研究者って奴を攫ってきたんだろ。」 その言葉に再び夜独はなるほどと頷く。これで全ての説明がつく。が。 一つ疑問に思って夜独はレイスレットに問いかけた。 「それで、何でそのことをもっと早くに言わなかったんだ?」 「…あー…」 がしがしがし、と、その鉄色の髪に指を突っ込んで頭を掻き言葉を濁す。訝る夜独に、レイスレットは気まずげに言った。 「……その書類見るまで忘れてたんだよ、悪ぃか」 つまり、それらの情報もこの書類に書いてあって、それを読んだ彼はああそういえばそんな話しも聞いたことがあったなぁと思い出したらしい。 その至極間抜けな理由に、目を瞬いた夜独は「いや」と変わらぬ声音で続けた。 「思い出してくれただけで十分だ。あとは『 「ま、無理だろうな。」 何せ全員悶絶中。まぁ初回でこれだけの情報を入手できたならいいかと夜独はすっぱり諦めた。 「――――――俺たちに与えられた任務は何だったか覚えてるか?」 「あ?」 突然夜独に問われ、レイスレットはPCを起動させるその背中に疑問の視線を向ける。しかしそれに構う事はなく、起動画面越しにレイスレットを見返した夜独は薄く笑って告げた。 「『 「――――あぁ、なるほど、確かにそりゃそうだ。」 言葉の意味を理解しくつくつと笑ったレイスレットは、僅かに聞こえる足音に扉を振り返る。数秒後、開いた扉を潜り翠が室内に入りながら口を開いた。 「何か見つかっ……。これは……」 「見つかったゼ、ご覧の通りにな。」 ≪ケケケッ、同じところぐるぐる回ってたぞこいつ≫ 「恐らく磁場に狂いでもあるのだろう。もしくは敵の 彼が方向音痴であると聞かされていた夜独の指示によって翠を迎えにいっていた魔王の言葉と素で言っているらしい翠のその言葉に、返答に困った二人は顔を見合わせて肩を竦めたのだった。 |
執筆:2006/09/20 |