「ってなわけでこれがメンバーね。」
明るいソプラノの声で言われ、差し出された書類を二人は受け取った。
「ってなわけでこれがメンバーね。」 明るいソプラノの声で言われ、差し出された書類を二人は受け取った。 |
異邦人達 |
渡されたA4サイズの紙の束はそれほど分厚くはない。ホッチキスで留められたそれの一番上の紙には、表紙のつもりなのだろう『「天支」組員データIN Lady』と書かれている。月獅がロキの持つ方を見ればそちらには『「天支」組員データIN man』と書かれている。 男性用らしいそれを見て、ロキが疑問を翠へ黒へと色の変わる瞳に写す。 「女性が淑女を意味する『Lady』ならば、男性は紳士を意味する『gentleman』ではないのかね?我等が創造主?」 言われて、それを手渡した少女―――――この世界を含む数多の世界と、様々な者達を創造した創造主―――――柳乃朋美は嫌そうに顔を顰めた。 「るっさい。あんたら男のどーこーがジェントルマンなのよ。脳が拒否反応起こして溶解するっての。」 なにやら失礼な言い分に、しかしロキは不快さを示す事無く頷いた。 「なるほど、確かに紳士と言うには少々問題のある面々が多いようだね。」 書類をめくり、口調とは裏腹に楽しそうに口の端を持ち上げ、笑みを形作る。 『お前もだお前も』と小さく呟く朋美に、月獅が聞いた。 「それで、私達は何をすればいいのかしら?」 漆黒の瞳が疑問を抱くという状況を楽しんでいるようにひっそりと輝き、赤茶の肩ほどの長さの髪が電球の光を返して赤銅色に輝いた。 月獅は自分に干渉する事象に関する情報を『知る』事が、彼女の世界に関わる未来を『見る』ことができる能力を持っているが、それ以上の力を持つ創造主である少女に関する事象は予見できない。それがどこか新鮮で楽しいらしい。 朋美はにっこりと、まるで悪戯でも考えている子供のように答えた。 「二人には『天支』の最高司令官――――まぁ、所謂『ボス』って奴になって欲しいのよ。」 『天上の玉座』と名称されたその役目は、個性的過ぎるほど個性的なメンバーのまとめ役。こまごまとした組織内の問題を解決し、任務に割り当てるメンバーを決める。簡単に言ってしまえば中間管理職だ。 それを簡単に説明し、朋美はあっけらかんと言った。 「ロキは男連中の、月獅は女性のまとめ役。任せたわよ♪」 容易く明るく気楽に任された、その役がどれほど大変か。理解していながら、しかし二人はそれぞれ微笑んだ。 「「御意に。」」 ロキは他者を操る術に長けているし、月獅はあらかじめ『知った』情報から最善を選ぶことができる。 まさに適材適所。 この役目は、この二人にしか出来ないことなのだ。 二人の返事に、満足げに頷くと朋美は顔の横まで上げた指の間に、二枚の封筒を出現させる。 「で。早速で悪いんだけど任務があったりすんのよ。」 悪いとは微塵も思っていなさそうなその言葉を待っていたかのように、 二人は差し出されたそれを躊躇うことなく受け取ったのだった。 |
執筆:2006/09/14 |